いつもふたりで・・・

Together with A Guest
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 2012.1.28 Guest

 ファッション・ジャーナリスト
 山室一幸さん



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icon 『 オートクチュールを最初に見た時、目から鱗の体験だった 』

渋谷:
これまでファッションの変化をいろいろご覧になってきたと思いますが、日本のファッション界はどんな盛り上がりだったんですか?

山室:
僕が海外にコレクションの取材に行ったのが86年ですかね。当時は東京コレクションがスタートして、いわゆるBCブランドブームの真っ直中だったんですよ。そんな中でテレビカメラを持ってパリコレとかミラノコレクションとかに行くとね、“日本人が何しに来たんだ”と。“ビデオに撮って売るんだろう”って。

渋谷:
あぁ。

山室:
だから、我々は真面目にファッションを伝えるための番組を作ってるんだと、そこの説得から入っていったんですよ。

渋谷:
それは大変ですよね。

山室:
当時は、山本耀司さんとか、川久保玲さんとか、ああいうアバンギャルドなものが自分にとっての一番リアルなファッションだったし、面白かったし。ところが最初に行った取材がオートクチュールだったんですよ。オートクチュールっていうのは当時の僕にとっては、お金持ちのマダム達が着飾るような、スパンコールとビーズ刺繍に囲まれた世界だと思ってたわけですよ。

渋谷:
えぇ。

山室:
うちのカメラマンは、イヴ・サンローランはこたつ布団を作っていると思っていたし、ジバンシィはスリッパ作ってると思ったし(笑)。という認識で行ったわけですよ。

渋谷:
あぁ、確かに日本ではね(笑)。

山室:
ところがファッションショーに行って、ジャケットとかスカートやブラウスを見た時に、“俺は今まで何を見てたんだろう? 世の中にはこんなにきれいなものがあるんだ!”って。そのオートクチュールを最初に見たことが目から鱗の体験だったのかも知れないですね。

渋谷:
それを日本に伝えていく難しさというのは?

山室:
デザイナー達から言うと、自分達の顧客に届けばいいと。自分達はマスメディアに向けて発信する必要が無いんだという時代でしたから。テレビでコレクションを伝えるということ、そこにハードルがあったんですね。ところがやってみたら多くの人達が関心を持って、マーケットが生まれてきた。BCブランドのブームもそうでしたし。そこには少し役立てたのかな、と。

渋谷:
はい。

山室:
もうひとつは、今、第一線で活躍しているファッションモデルとか、スタイリスト、デザイナーの方々が「小学生の頃から見てました」とか、そこで今の仕事を目指すきっかけになってくれたなら嬉しいなと、27年やっていて思いますね。


icon 『 ファッションにもやっぱり力ってあると思うんです。 』

渋谷:
ファッションは流行の移り変わりが早い世界だと思いますが、流行が生まれる時はどんな要素が反映しているんでしょうか?

山室:
ひとつは、その時に一番勢いのあるデザイナーの影響になります。同時に経済、それと政治や社会状況。例えば今年で言うとロンドンオリンピックがあるとなると、少しアスレティックなものになっていったりだとか。あとは今年いろんな国で首相が変わりますよね。こういった政治的な動きっていうのは必ずファッションに影響するんですね。

渋谷:
へぇ。やっぱり時代を写し出しているものなんですね。

山室:
ファッションは時代を写す鏡といわれますけども。あとは僕は今年は映画に注目しています。この間行われたゴールデングローブ賞でも作品賞を取りましたけれども『アーティスト(The Artist)』、あれは素晴らしい映画ですよね。

渋谷:
私も見ました! 素晴らしいですよね。

山室:
サイレント映画時代のムード、サイレントからトーキーに移る20年代終わりから30年代のハリウッドの映画界がテーマになっているんですけどね。ファッションのムードとしても非常におしゃれだなと思うし。

渋谷:
フランス映画なんですよね。今の時代にサイレント映画で、白黒で、VFXがどれだけ進んでいるかを見せつけるような作品が多い中、古き良き時代に戻った作品になっていて。

山室:
映画に対するひとつのリスペクトみたいな気もするし。20年代とか恐らく戦前のハリウッドっていうのは映画会社そのものに専属のデザイナーがいたわけ。そのデザイナー達は映画の中でスターが輝くためだけに服を作るわけ。

渋谷:
やっぱりそうですよね!

山室:
例えばデートリッヒなんかもそうだけど、本物の毛皮しか着ない、本物のシルクしか着ない、宝石も本物じゃなきゃダメ、だからこそ映画の中で、虚構の世界なんだけど、そこにリアリティがあって。あの時代に憧れる気分ってなんか分かりますよね。

渋谷:
憧れます! 今は日本でも活躍されているデザイナーさんがたくさんいらっしゃいますが、山室さんが気になっている方はいらっしゃいますか?

山室:
20数年前、東京コレクションがスタートした当時と比べると、世界的に、坂の上の雲を見るようなクリエイターが少なくなったよね。世界に打って出るというよりは、自分達の世界観を守りながら、純文学的に…、それは悪いことではないんだけど、こだわったものづくりをしている。それは決して世界のどのトレンドにも影響されていないし、東京にしかないトレンド、東京にしかないクリエイションというのがあって。

渋谷:
はい。

山室:
それは世界の流れとは少しかけ離れている感じがするね。良い意味でも、悪い意味でも。だからレディー・ガガとかは東京にしかない服、みんながあまり知らないような若手のクリエイターのブランドとか良く着てますよね。だからね、コンテンポラリーアートに近いような、そんな状況になっているかな。

渋谷:
ふーん。

山室:
かつてのDCブランドのあの勢いっていうのは、むしろ今はガールズコレクションに出ているようなガールズ系ブランドやアパレルの方が勢いがあって、アンビシャスな雰囲気もあって。だからクリエイター達はどんどん純文学的な、こだわった作り方になってきている。これをいかに世界に発信していくか。今世界から見るとクールジャパンっていう言葉だけが一人歩きしてて、アキバ系だとかアニメ系だとか、それとは別に、日本のクリエイターはこんなに頑張ってるんだよっていうことを、我々も含めて伝えなくちゃいけないな、とは思ってるんですけどね。

渋谷:
では最後に、ファッションジャーナリストの山室さんが今やりたいことは?

山室:
音楽で言うと、音楽の力を信じているアーティストがたくさんいると思うんですね。ファッションにもやっぱり力ってあると思うんですよ。それは時に人を勇気づけたりとか、自信を持たせたりとか、自分を磨いてくれたりとか、夢を見させてくれたりとか。こういう閉塞感のある時代だから、ファッションに夢を、ファンタジーを見せて欲しいなという気分がすごく強いですね。それを伝えていくのが僕らだし、それはどんな時代にもあきらめないで続けていかなきゃいけないな、と思っていますね。


ファッション・ジャーナリスト 山室一幸さん
1959年、東京生まれ。上智大学理工学部卒。1985年からTV番組「ファッション通信」のプロデューサーとして、20年以上にわたって世界各国のファッションシーンを取材。2006年、ファッション週刊紙「WWDジャパン」編集長に就任。各メディアの枠を超えて独自のファッション評論を展開している。著書に「ファッション:ブランドビジネス」がある。


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